俊光と菜子のホントの関係
第10章 『抑えきれなくて』
「ねぇねぇ、俊光君?」
「っ……な、何っ?」
菜子が急に、俺の袖を引っ張りながら呼んできた。どっぷりと考え事をしていた俺からしたら、遠い所から瞬時に引き戻されたみたいな感覚だった。
「お父さんもお母さんも、サラダ喜んでくれるよね?」
菜子は、子供並の無垢な目を輝かせながら、俺に訊いてきた。父さんと母さんにも食べさせたくてしょうがないと、キラキラ笑顔で言っている。
「あ……そりゃあそうだろ。愛娘の手作りなんだから。あの二人のことだ。仕事で忙しかったことも忘れるぐらい喜ぶぞ、きっと」
「えへへー。だといいなぁー」
菜子……。
父さん母さん想いな菜子に心が綻び、気づけば自然と頭をポンポンとしていた。
「え、俊光君?」
「あ、いや……いい子に育ったなぁーと思って」
「……ぷっ。あははっ、やだぁ何それー。なんかおじいちゃんみたーい。俊光君も私のこと、親戚のおばさんとか言えないじゃーん」
「はぁ? おじいちゃん? せめて父さんにしろよ。失礼なヤツー」
「だって、スゴいしみじみとした言い方するんだもん。それに、失礼なのはお互い様でしょー」
……まぁ、そんな事の真相を、何も知らない菜子のいる前で探ることじゃないか。その辺のことも、菜子が高校を卒業した時に打ち明けられるだろうし。
やっと良からぬ方向へと考えなくなったってのに、今度は違うことで考え込むって……。
今は二人きりなんだから、まだハッキリとしていないことを、あれこれと憶測して考え込むのはやめておこう。
菜子の笑顔を曇らせないよう、俺は食いかけのカレーを再び口に運び始めた。