俊光と菜子のホントの関係
第10章 『抑えきれなくて』
だってね? あぁやって大袈裟に泣けば、最後には決まって俊光君が――
(父さんと母さんが帰って来るまで、俺がずっとそばにいてやるから)
て、ヨシヨシしながら優しく慰めてくれるんだもん。
だから私は、毎回ヨシヨシをしてもらうため、その時だけは子役さながらの演技力を発揮していたんだよね。今思えば、計算高い妹だったなぁ、私……。
騙してた私も私だけど、それを全く見抜けなかった俊光君も俊光君だけどねー。あの頃からすでに鈍感だし! くぷぷーっ!
それがたまらなく面白くて、足をバタバタして笑っていると……
ズルッ! ドボンッ! ってなっちゃった!
「っ、ガボガボガボッ……!」
きゃーっ! 体が一気に滑っちゃったぁ!
頭まで入っちゃって息も出来なーいっ! 溺れる溺れるぅーっ! ていうか、すでに溺れてるぅー!
バスタブがツルツルと滑るから、なかなか上がれないよぉっ! ヘルプッ、ヘルプー!
バシャバシャと藻掻き(もがき)ながらも、手探りでバスタブのフチに掴まって、思いっきり体を引き上げた。
「ぷはぁーっ! はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
あ、危なかったぁー……。女子高生がお風呂で溺れるなんて、珍事過ぎーっ。
「はぁーもーう、私ってば。なーにやってんだかだよぉー……」
ん? これって……俊光君を騙し続けた天罰? 今このタイミングで?
だとしたら、
「俊光君、ごめんなさーい……」
聞こえてないだろうけど、少しでも罪を軽くしたくて、俊光君がいるリビングの方向に向かって謝った。