俊光と菜子のホントの関係
第10章 『抑えきれなくて』
「ん? あんた達、そんなところでどうしたの?
……あらっ。まぁー菜子ったら、バスタオルだけでウロついたりして、はしたないっ。誰か来たらどうするのっ。玄関から丸見えよぉ?」
母さんは玄関から上がりながら、この怪しく漂う空気を読めずに捲し立ててくる。
ま……マジで……一瞬心臓止まった……。
俺は情けないことに、震える体と心を抑えるのに必死で、母さんのセリフを、ただ黙って聞いていることしか出来なかった。
「えっ……あっ……だ、だって、脱衣場にアレが出たんだもん……」
何も言えない俺の代わりに……じゃないけど、動揺し気味の菜子がそう言って、またさっきみたいに指を差した。
「脱衣所にアレぇ? アレって何よ? どれどれ…………、ひぃっ! いやぁーーっ! もう十月なのに、まだ出るのぉ!? 勘弁してぇーっ!」
「わっ」
母さんが怯えて俺の腕にしがみついてきた。そうだった、母さんもアレが大嫌いなんだ。
「で、でしょう? だから、そのぉ……俊光君に助けを求めたの……ね、俊光君?」
「えっ……あ、あぁ……」
あんなことをした手前、気まずくて菜子と目を合わせられず、顔を反らしたまま返事をした。
「じゃあ早く倒してよぉー俊光ぅー」
「わ、わかったよっ……」
母さんは「うぅー、気持ち悪っ」とブツブツ言いながら体をゾワゾワさせ、そのままリビングへと入っていった。
「…………」
危なかった。
もし……あのまま母さんが帰って来なかったら、もっと取り返しがつかなくなることをしてた……。
俺、完全に理性を失ってた。