俊光と菜子のホントの関係
第10章 『抑えきれなくて』
「あ、の……俊光君?」
菜子に遠慮がちに呼ばれ、意識を戻した。
「あっ……」
後ろめたい気持ちが癒えぬまま怖々と目を合わせると、菜子は困惑した表情をしていた。
何で抱きしめて、おでこにキスしたの? と、疑問を投げかけているように見えた途端、ようやく自分がした事の重大さを自覚してしまい、冷や汗がジワリと滲んだ。
っ……何か、言い訳を……。
悪あがきのように頭を働かせ、浮かんだのが――
「お…………落ち着いた、か?」
「…………へ?」
「その……お前が、あまりにもアレに怯えてたから……だから、あぁやって抱きしめれば落ち着くかと思って……それで……」
という、逃げのセリフだった。
あんなことをしておきながら逃げるってのは、自分でも卑怯だと思う。けど、ここで正直に言ったら絶対菜子を動揺させるし、母さんにもバレるだろうしで、メチャクチャになりそうだ。
だから今は……逃げるしかないよな。
「あ……そっかぁ。そういうことだったんだねー。
うん……確かに、すごく落ち着けたかも。俊光君の温もりのおかげで癒された感じー。えへへ……」
「菜子……」
嘘に対して笑みを見せる菜子に、良心がズキズキと激しく痛んだ。
バカ。すんなりと真に受けるなよ。
素直すぎで……可愛すぎる。