俊光と菜子のホントの関係
第11章 『一旦距離を置きたい』
息子の事情を知らない癒し系の父さんは、すでに寝巻きからワイシャツとスラックスに着替えていた。
「まだ五時過ぎなのに、もう行く準備してんの?」
「あぁ。今日は早めに出社して、仕事を少しでも片付けようかと思ってさ。だから」
「そっか。まだ忙しいんだな……あ、洗面使う?」
父さんのぴょんと跳ねた寝癖と、ヒゲが生えかかった口まわりを見ながらそう訊くも、
「いや、まだいいよ。慌てなくていいから」
と、今のこの俺に気を使ってなのか、さりげなくこの場から離れようとした。
「……っ、あっ。なぁっ、父さんっ」
「……ん?」
無意識にすがりたい気持ちが出て、父さんを思わず引き止めてしまうって……。よっぽどメンタル弱ってるんだな。今の俺。
「あ……あのさ、19にもなってコレって……変?
だいたいこの生理現象って、思春期頃なんだろ?」
息子からの性の質問に、父さんは戸惑うことなく口を開いた。
「いや、そうとも限らないぞ。お父さんだって、四十後半でもなったことあるし」
「え、そうなの?」
「あぁ。男性特有の生理現象って、いくつなっても起きることがあるっていうからな。
だから、19のお前にそういう現象が起きるのが変なんてことはないんだぞ? まだ若くてまだ盛んなんだ。むしろ、起きて当然と思ってもいいぐらいだ」
「そっか……」
嫌な顔を一つもしないで忠実に答えてくれた父さんの優しさが、心にしみる。