俊光と菜子のホントの関係
第11章 『一旦距離を置きたい』
智樹とは乗る電車も一緒だから、お互い言わずとも自然と『一緒に帰ろう』という空気になり、そのまま並んで座り続けた。
「……やっぱ菜子ちゃんから距離を置くことにするのか」
来週からシフトが増えることを報告したら、智樹は朝同様、賛同したりしないで静かに俺を見つめていた。
「あぁ……今だって菜子のことばかり考えてたんだ。
こんなに気持ちが高ぶってたんじゃ、またふとした拍子に手を出し兼ねない。だから……」
すっかり菜子に対して縮こまってしまっている俺。
それでか、智樹はベンチに深く寄りかかり「はぁーあー」と半ば呆れたようなため息を吐いた。
「まったくぅー。これだから『童・貞』はぁー」
「いっ……! こんなところでそれを言うなっ!」
最後の部分を強調され、羞恥心を煽られた。
「一晩限りのアバンチュールをするよりそう言われた方がマシだって、大学の教室で叫んでいたのはお前だろー?
そうでなくても、あまりにウジウジしてるから意地悪したくなったんだよっ」
「やめてくれっ! 今朝のことは蒸し返してくれるなっ!」
たぶん、また真っ赤であろう俺を見て、智樹はまた腹を抱えて笑いだした。
俺……完全に遊ばれてる。