俊光と菜子のホントの関係
第11章 『一旦距離を置きたい』
やっとふざけたヤツ(智樹)から解放された俺は、無事に家に帰り着くことが出来た。が、すぐに中には入らずに、暖色系のライトが柔らかく照らす玄関先で――
「……この度は、胸を鷲掴みしてしまいまして、まことに申し訳ございませんでした」
と、堅苦しく謝り、ドアに向かって深々と頭を下げていた。
「あーっ、これもダメだっ。何かの記者会見かっつーの」
納得出来ないもどかしさで、頭をガシガシと掻いた。
俺は今、菜子と顔を合わす前に一人で謝罪の練習をコソコソとしていた。
こんなのやっているところを誰かに見られたら、不審者扱いされること間違いなしだ。だから、人が通る気配を感じたらすぐさま練習を中断して、『ここの住人で今帰ってきたんです』アピールをしたりしていた。……って、それって逆に怪しかったりするのか?
これも、あの智樹のせいだ。アイツが俺のことを面白がってずーっといじり続けてたから、心の準備をする時間がなくなって、ここで練習をするハメになったんだぞ。
しかし、何パターンも謝罪の仕方をしてみたけど、どれもしっくり来ない。
ところで今何時だ? と気になり、スマホの時計を見てみると……
うわ、ヤバい。もうこんな時間? てことは、二十分以上もここで留まってたのか、俺は。いい加減、早くしないと。
そんな焦りがじわじわと出てきてしまうと、ますます考えがまとまらなくなってきてしまうという、悪循環。