俊光と菜子のホントの関係
第11章 『一旦距離を置きたい』
うーん……こうなったらもう真面目に謝るよりも、ジョークを交えて笑いを誘った方が場が和んで、菜子もリラックス出来るかもしれない。
したら……これはどうだろうか?
言い方は、普段の智樹ぐらいの軽いノリで――
「菜子、昨日はごめんっ。けどお前ってさー、大分成長したんじゃねぇの? なーんてな。ハハハハー……」
って、それセクハラだからっ!
これじゃあ笑いを誘うどころか、『俊光君キモいっ!』つって反感を買ってしまうぞっ。
この謝罪方法は検討するまでもなく、即刻却下した。
だぁーもうっ。慣れない謝罪の仕方を下手にしようとするのは、もうやめだっ。
散々何パターンも練習しておきながら、最終的には『誠心誠意を持って謝るのが一番いい』という、ごく一般的な答えに収まった。
ていうか、俺のことを変態と思ってるかもしれない菜子が、ちゃんと謝罪を聞いてくれるのかどうかも怪しいところだ。もし端(はな)から避けられてしまったら、それこそ今までの練習が無駄になって、ただここで不審者になってただけで終わってしまう。まぁ、そんなことは別にいいとしても、距離を置く前にちゃんと謝罪をしてわだかまりをなくしておかないと、菜子とはそれっきり……なんてことにもなり兼ねない。
グダグダと考えてしまったけど、とにかく無事に謝罪が出来ることを祈るしかない。
家の前に着いてから約三十分。ようやくドアノブに手をかけた。
「……よしっ、いくぞっ」
俺は意を決してノブを下ろし、緊張で重く感じるドアをゆっくりと引き開けて中へと入っていった。
「た、ただい――」
バンッ!
「おかえりなさいっ!!」
「まぁっ!」
言い終わるか終わらないかのところで、まさかの菜子が、リビングからこれでもかというぐらい勢いよく現れた。それで俺もこれでもかというぐらい驚いてしまい、語尾も体も飛び上がった。
ま、マジでっ……心臓が止まるかと思ったぞ……。