俊光と菜子のホントの関係
第11章 『一旦距離を置きたい』
「えっとー……そうだっ。夕飯はっ? まだでしょ?」
「へっ? あ、あぁ……」
菜子が思い出したように訊いてきたことに対して、俺はやらしいことを考えていた後ろめたさから、つい上擦った声を出してしまった。
でも菜子は、そんなことにも気にもせず(いや、『気づきもせず』だな)、ハリキッた様子で口を開いた。
「したら、お母さん今お風呂だから、私が用意するねっ! 今日はねー、チーズ入りハンバーグなんだよー」
「へ、へぇー、美味しそうだな」
「でっしょう? 私も一緒に作ったんだー。えへへー」
「そっか……」
って、お前なぁっ……。何でそんなに警戒心ゼロなんだよ。俺はお前の胸を、真正面からムニッってしたんだぞ?
まさか、俺に罪悪感を与えないように、無理して振る舞ってるってことはないよな?
もしくは、そこまで気にしてないとか? いやいやっ、アホか俺はっ! あんなに悲鳴を上げて逃げていったのに、気にしてないとかないっつーのっ!
「じゃあ、早速準備するねっ」
「え、あっ……」
菜子がそそくさとリビングへ戻っていってしまった。俺も慌てて玄関から上がり、菜子を追いかけて中へ。
謝ると決めたのに、少しでもタイミングを逃すと切り出しにくくなる。謝るなら今だろ。
「あ……あのさっ、菜子っ」
「っ、は、はいっ?」
あ。焦りから、つい声を張ってしまった。菜子を少し震わせちゃったぞ。
途端に、普段ゆったりくつろげるはずのリビングが、全然くつろげない緊張感漂う空間へと変わっていくのを感じた。
「えっと、その……昨日の……む、胸のことなんだけどっ」
「うっ……うんっ……」
切り出すと、緊張がピークに。
胸の感触が記憶に残るほどガッツリ掴んでしまったんだ。いくら警戒心がないように見えても、菜子だって内心穏やかではないはず。
だから、ちゃんと謝ってわだかまりをなくそう。