俊光と菜子のホントの関係
第12章 それから――
「……ねぇ、池崎君?」
「はい」
ふいに呼ばれて顔だけ横に向けると、山本先輩は何か面白そうにフフフと微笑む。
「池崎君って、下の名前……『俊光』よね?」
「え? そうですが……」
それがどうしたんだろ……
「じゃあさー、親しみ込めて……
これから『俊光君』って呼んでも、いい?」
「えっ!?」
先輩の、俺と親しもうとするセリフに、拒否反応が出てしまった。
だって『俊光君』は――
(ねぇねぇ、『俊光君』? お父さんもお母さんも、サラダ喜んでくれるよね?)
「――っ、よせっ!」
「えっ……!?」
はっ。ヤバい。たまらず声を荒げてしまった……。しかも、知り合ってまだ間もない先輩に向かって『よせっ!』って。いくらなんでもそれはダメだろ。
「す、すみませんっ。あの、俺……名前じゃなくて、今までどおり、苗字の方がいいんですけど……すみませんっ」
動揺でしどろもどろになりつつ何とか平謝りすると、俺に荒げられて目を張ってた山本先輩は、またにこやかに戻った。
「あ……あはは、そっか。ワタシもごめんね。急に馴れ馴れしかったかな?」
「あ、いえっ。そんなことはっ……」
はぁ……変な汗掻いた……。山本先輩にこやかだけど、内心穏やかじゃないかもなぁ。あー悪いことした。
しかし、何でだろ。『俊光君』って、前は他の人から呼ばれても何とも思わなかったのに。それが今、先輩にちょっと呼ばれただけで、菜子の『俊光君』て呼ぶ声を上書きされそうだととっさに感じてしまった上に、自分でも驚くぐらいの拒否反応が出るなんて。
距離を置こうとしてる矢先にこれじゃあ、一向に離れられないんじゃないのか?
自分が思ってる以上に、菜子が心に根強くいるのかもしれない。
たくっ……どんだけ好きなんだっつーの。