俊光と菜子のホントの関係
第14章 『俊光君への兄(本命)チョコ』
「あっ……」
「……っ」
私は慌ててパッと目を反らした。
俊光君もスッと顔を離すと、またリュックを持って立ち上がった。
「菜子、ホントにごめんな。俺行かないとっ……」
俊光君は、まだ座り込んでる私の頭を、慰めるようにポンっと優しく触れてから、部屋の前から階段に向かって歩きだす。
あ……俊光君っ……。
スゴく間近にいた俊光君が、急に離れたら寒くなって心細い。
「やだっ……待って、行かないでっ!」
「っ、菜子っ……?」
つい……俊光君の服を後ろからむんずっと掴んで引き止めちゃった。
私ってば、なにやっちゃってんのぉっ。俊光君は、大学に行かないといけないのにぃ……。
でも引っ込みがつかなくて、服を掴んだままオロオロ。首だけひねって後ろにいる私を見下ろす俊光君は、困ったような呆れたような、そんな顔をしている。
「あっと、えと、えーっとぉ……あっ、そうだったぁ!」
床に置いた小さな紙袋を見て、本来の目的を思い出した。俊光君のどアップで、記憶がすっかりぽっかり抜け落ちちゃってた。私ってば、しっかりしなきゃだよぉ。
「菜子、どうしたんだよ……」
「ごめんね、ごめんねっ! 俊光君が急いでるのは、百も二百も三百も承知なんだけどっ、どうしても今受け取ってほしいものがあるのっ!」
「受け取ってほしいもの……って?」
「あのっ……これっ」
私はここでやっと服から離れて紙袋を手に取ると、俊光君に押し付けるように差し出した。俊光君はピンと来てないみたいで、これは何だろうかとポカンとしている様子。
「今日はバレンタインだから……これ、チョコレートっ」
「あー、そっか。今日……だったっけな」
やっぱり俊光君だ。今日がバレンタインデーだという認識がなかったみたい。