俊光と菜子のホントの関係
第14章 『俊光君への兄(本命)チョコ』
「……あ。したら、俺の部屋の前にいたのって……コレのためだったの?」
「う、うん……。そのぉー……どうしても私が一番に、俊光君にチョコを渡したかったから……」
「っ……、菜子……」
そのワケは、絶対に内緒だけど。
「だから……はいっ、どうぞ!」
さっきよりも明るく振る舞ってから、もう一度チョコを差し出した。
ドキドキしながら受け取ってくれるのを待っていると……
俊光君は、目元も口元もふっと力が抜けたように緩めてから、私の手から丁寧に紙袋を取った。
「じゃあ……ありがたくいただきます」
「俊光君っ……」
やっ……やったぁーっ!
兄(本命)チョコ、一番に渡せたぁーっ!
もう嬉しくて、万歳三唱しちゃいたいっ……。でも、我慢、我慢。最後の本命チョコなんだから、しおらしくしていたいもんね。
『最後』……。これで、最後……かぁ……。
あ、やだ。渡せて嬉しかったハズが、ちょっとおセンチな気分になっちゃいそう。
「へぇー。何か、いつものチョコと雰囲気が違う気がする。
箱からして大人っぽいというか、高級っぽいというか……」
寂しく思っていると、俊光君が紙袋の中身を覗きながら言った。
「あ、うんっ。だってそれ、本――」
「……え?」
俊光君に真顔で聞き返されると、言ってはいけないことを言いそうになった自分に、ハッとして気づいた。ヤバ。
「あーとっ、本…………物の、チョコレートだからっ」
「は? 『本物』のチョコレート? チョコに偽物とかあんの?」
「あんのっ。たぶん……ね。えへへ」
「ふーん……そうか」
ふひゅー……危ない危ない。ギリギリ回避。
ぼんやり考え事をしちゃっていて気が抜けていたら、つい『本命だから』つって、お口をつるんと滑らせちゃうとこだったよ。私ったら、さっきからいろいろが抜けてばっかり……。
おでこに滲んだ冷や汗をグーで拭った。ぶつけたところだったから、ちょっと触っただけでまだ痛かった。