俊光と菜子のホントの関係
第16章 『迫ってくる、もう一つの本命チョコ』
「――はい、池崎君。僕と同じ機種で良かった」
図書館のスタッフルームで、佐原先輩からスマホの充電器を受け取った。
「すみません、助かります。友達もいたのですが、二人とも違う機種だったから借りれなくて」
恐縮する俺に、佐原先輩はメガネの奥の目を細めて穏やかに微笑んだ。
「ううん。スマホって充電切れちゃうと落ち着かないもんね」
「……はい」
特に今は、落ち着かなくてしょうがないんです……。
菜子、きっと何回もかけ直してるだろうな。明里ちゃん達と楽しく遊んでいただろうに、気を揉ませるようなことをして……。俺ってヤツは。
「僕は使わないから、遠慮なくフルになるまで充電すればいいよ」
「ありがとうございます。お言葉に甘えます」
佐原先輩って本当、常に落ち着いていて穏やかで、人間が出来ているよな。俺も佐原先輩みたいな人になってみたいよ。無理だろうけど。
俺は近くのコンセントに、今度こそ充電器の電源プラグをちゃんと入れてから、自分のスマホにも挿した。
スマホに赤いランプが付いたと同時に、側面にある電源ボタンを長押ししてみる。
……やっぱすぐにはつかないか。少し待つしかないな。バイトが始まる前までにかけ直すことが出来れば……。
しっかし何回思い返しても、なんて中途半端な告白。大事なところで『ピー』だし。俺の告白は放送禁止かってのっ。
いや……そもそも大事なことを、電話で済まそうとしたのが間違いだったんだ。告白は、直接会ってきちんと伝えるべきだった。
それを、スマホが身を犠牲にしてまで教えてくれたってことか……(身を犠牲にさせたのは俺だけど)。
菜子。ホントに、こんな兄でごめんな。
自分の間抜けさ加減にすっかりヘタレ込んでいると、
「……池崎君。ちょっと訊いてもいいかな?」
佐原先輩が話しかけてきた。