俊光と菜子のホントの関係
第16章 『迫ってくる、もう一つの本命チョコ』
「あ、はい。訊きたいこと……って?」
「池崎君は……山本さんのこと、どう思ってる?」
「えっ? 山本先輩……ですか?」
「うん」
佐原先輩と同じ学年・同じ学部で、去年の十月頃から図書館でのバイトを始めた女の先輩だ。
どう思ってるって……正直、考えたことがないけど。
山本先輩といえば、いつもにこやかなような気がする。しっかりめの化粧のせいか顔つきは我が強そうに見えるけど、話す姿勢はどこかふわふわしてるというか……。
前に山本先輩から『俊光君って呼んでもいい?』と言われた時に、俺が菜子の『俊光君』を上書きされたくなくて、つい『よせっ!』って強く言い放ってしまうという、失礼な態度を取ったことがある。それなのに山本先輩は、以降何もなかったかのように普通に接してくれている。
そんな山本先輩の人柄を思い出しながら、
「えっと……ちょっと不思議な感じがしますけど、気さくだし、人がいいなと思います」
と、答えてみた。
「ふーん……そっか。それだけならいいんだけど」
「は、はぁ……」
「じゃあ僕は、事務室の方に行ってるね」
佐原先輩は穏やかに笑みを見せると、出入りの引き戸を開けてスタッフルームから出ていった。
……何だったんだろ、今の佐原先輩。質問の意図が全然読めなかった。
うーん…………ま、いいか。それだけならいいんだけどって言って納得してたみたいだし。
それより、菜子に電話をしないと。もうそろそろ電源つくよな。
俺は、棚の上に置いたスマホに手を伸ばした……が、出入口の引き戸がまたガラーっと開いた。
「……あら、池崎君。おはよー」
「あっ、おはようございます」
さっきまで噂をしていた山本先輩が、にこやかにスタッフルームに入ってきた。
山本先輩は持っていたキャンバスバックを、部屋の中央にある長テーブルの上に置き、壁にかけてある姿見の前で、少し茶色がかった長い髪をヘアゴムで一つにまとめた。