俊光と菜子のホントの関係
第16章 『迫ってくる、もう一つの本命チョコ』
山本先輩が来ちゃったから、ここで電話するわけにはいかないよな。一旦外に……いや。まだ充電が不十分なうちに電話したりしたら、また中途半端なところで『ピー』ってなりそうだ。さすがに、二度目のピーはダメだろ。
「……ねぇ、池崎君」
「っ、はい」
「ちょっと、いいかな?」
「えっ……山本先輩もですか?」
「ワタシ〝も〟って、何?」
「あ、いやっ。こっちの話です」
なぜ、佐原先輩に続いて山本先輩までもが、俺に?
まさか山本先輩も、佐原先輩のことをどう思ってるとか訊くんじゃ……。ていうか俺、菜子に電話したいんですけど。
「実は、池崎君に渡したい物があってー……」
俺の自己都合を知らない山本先輩は、キャンバスバッグの中に手を入れて何かを探りだした。
佐原先輩と同様に質問するんじゃないみたいだけど……俺に渡したい物って、それ、あとでじゃダメなんだろうか?
菜子に電話をしたくて内心ヤキモキしていると、
「ふふふ。今日はバレンタインでしょう? だから……はい、コレ。ワタシから」
「…………っ、それは……」
山本先輩がにこやかに差し出してきたのは……
シルバーのリボンが十字に巻かれている、細長い黒の小箱。
――菜子がくれた本命チョコと、全く同じ物だ……。