俊光と菜子のホントの関係
第16章 『迫ってくる、もう一つの本命チョコ』
「――池崎君はまだスタッフルームにいるはずだから、そこでゆっくりと話をしてていいからね」
「あ、ありがとうございます……」
図書館の裏側の廊下を一緒に歩いているメガネのお兄さんは、慣れない場所にオドオドしてる私を安心させるような、穏やかな口調で言ってくれた。
「急に来てすみません。バイト前なのに。
とし……あ、兄とどうしても連絡が取れなくて……」
さすがに『はじめまして』のお兄さんの前では、『俊光君』じゃなくて、余所行きの呼び方にしておかないとね。
「ううん、気にしないでいいよ。池崎君、スマホが充電切れしちゃったからね。
こんなことを言ったら、妹さん気を悪くするかもしれないけど……池崎君って、何気に天然なところあるよね?」
「はいっ。そうなんです、そのとおりなんですっ。天然で鈍感なんですっ」
言われたことをつかさず肯定して、更に言わなくてもいいことまでプラスしちゃうと、メガネのお兄さんは小さくクスクスと笑いながら肩を揺らした。
良かったぁ。案内をしてくれる人がこのお兄さんで。話しやすいしホッとしたよー。
胸元の名札をさりげなく見ると、ふりがな付きで『佐原 優(さはら ゆう)』と表されている。名前のとおり、ホントに優しそうな人。
俊光君がバイトし始めた頃、丁寧に教えてくれる先輩がいるって話してたのって……ひょっとしたら、このお兄さんのことかもね。
智樹さん、ホントにありがとう。大量のチョコが入った紙袋を重たそうに持っていたのに、私のために往復してまで案内をしてくれて。おかげで、俊光君のバイト前までに間に合うことが出来たよー。
「はい、到着。ここがスタッフルームだよ」
「っ、はいっ……」
ひゃーっ。いよいよ俊光君に会えちゃう。
いざとなると、ど緊張だよぉー。
密かにドッキンドッキンしていると、メガネのお兄さんが出入り口の引き戸をノックしようとした。
だけど、メガネのお兄さんは――コンコンと音を鳴らす寸前でその手をピタッと止めちゃうと、スタッフルームに耳を傾けた。