俊光と菜子のホントの関係
第16章 『迫ってくる、もう一つの本命チョコ』
「……え? あ、あのぉー」
「シー……」
「っ?」
自分の口元に人差し指を立ててシーしたお兄さん。シーと言われた私は、思わず手で口を押さえて黙った。
え、何でシーなの? 何でノックしないの? 何で出入り口で耳をすませているだけなの? 俊光君、中にいるんだよね?
頭の上で、何で何でとクエスチョンマークばかりをプカプカ浮かべていると、
私をシーで静めたお兄さんは――時代劇によく出てきがちな、どこかのお屋敷に忍び込む曲者(くせもの)みたいに、出入り口の引き戸を音をたてずにそうっと開けた。
その隙間から中の方を覗くと……途端に、お兄さんの穏やかだった表情は、真剣な表情に変わった。メガネの奥の目付きも、少しだけ鋭くなったような気がする。
ホントに、どうしたんだろう?
よくわからないけど、私も一緒に曲者になって覗いてみた。
したら、中には――
「あっ……」
――会いたかった俊光君が、ちゃんといた。
横顔だけでも目にしたら、胸がキュンと嬉しく弾む。
俊光君だ……俊光君だぁっ……。
どんどん愛おしい気持ちが溢れてきちゃった私は、もう曲者ではいられなくなって、引き戸に手をかけた。
「とっ……俊光く――」
「池崎君、鈍そうだからハッキリと言っておくけど……
これ、義理チョコじゃないからね」
…………はい?
いきなり聞こえてきた俊光君じゃない声に、中に入ろうとした私の足を、思いっきりピタッと止められちゃった。