俊光と菜子のホントの関係
第16章 『迫ってくる、もう一つの本命チョコ』
――まずい。山本先輩の顔が、目と鼻の先にある。
これ以上近づかないように、でも相手は華奢な女の人だから力任せにならないように山本先輩の肩を押して、顔も体も離そうとした。
「ちょ、やめてくださいって、山本先輩っ……」
「池崎君みたいに純粋で真っ直ぐなコには、もっとグイグイいかないとダメみたいね」
離そうとしている俺にお構い無く、山本先輩は言ったとおりにグイグイと迫ってくる。
他の女性からこんなに迫られても、全然ドキドキもしない。困るし迷惑だと思うだけ。
俺が迫られてドキドキするのは、妹の菜子だけなんだ。
「ふふふ……いいわ。その大好きっていうコから、ワタシの方に振り向かせてみせてあげる」
「なっ……!」
山本先輩が――唇を少し突き出して、じわじわと距離を詰めてくるっ……!
こ、これはマジでまずいっ!
申し訳ないけど、怪我をさせない程度に突き飛ばそうとした……ら、
「だっ……ダメぇーーーーっ!!」
「っ!?」
突然、叫び声が部屋中に響き渡り、引き戸がピシャンと乱暴に開かれた。
俺も山本先輩もそれに驚いて瞬時に固まると、誰かがイノシシみたいに頭を向けて猛突進。
「うわっ!」
「きゃあっ!」
『イノシシみたいな誰か』は、突進してきたままの勢いで、俺から山本先輩をべりっとひっぺがえした。
「もーうっ、いきなり何すんのよー……って、
あなた……一体、誰?」
山本先輩が不審そうにして見たのは――
いつの間にか目の前で、俺に背を向けて、俺を守るように両手を広げ立ちはだかっていた女のコ。
見覚えのある黒のコートに白いマフラー。学校指定のスクールバッグ。そして、ゆるふわなセミロングに、頭をポンポンとしやすい背丈。
あきる程ずっと見てきたのに、今でもあきずにずっと見ていられるその後ろ姿は、
「おっ……お前っ、何でっ……!?」
紛れもない――菜子だった。