テキストサイズ

俊光と菜子のホントの関係

第16章 『迫ってくる、もう一つの本命チョコ』


 グイグイと迫ってきていた山本先輩に、突然イノシシみたいに現れ俺を取られまいと必死にガードする菜子。

 それに加わるかのように――


「……山本さん、ダメだよ。こんな健気なコから、池崎君を無理矢理奪い取ろうとしたら」

「さっ、佐原君っ……」


 佐原先輩まで現れた。

 クスクスと小さく笑いながら、山本先輩に気安い調子で歩み寄る。


「もう、観音様みたいに穏やかな顔して『奪い取ろうとした』だなんて、人聞きの悪いことを言わないで。
 ワタシは、池崎君に振り向いてもらおうとしていただけよ?」

「仮に池崎君が振り向いたとしても、すぐにあきるでしょ。
 君とは大学からの付き合いだけど、わかるよ。惚れっぽくて突っ走る。そして、すぐにあきる。
 でもそれはね……君がまだ、心から人を好きになったことがないからだよ」

「そっ……そんなことっ……」


 穏やかながらも佐原先輩が内を攻めていくと、図星をつかれたであろう山本先輩は、ばつが悪そうな顔をする。

 同じ場にいる俺も、いまだに俺に背を向けている菜子も、先輩二人のことをただ黙って見ているだけでいた。

 すると佐原先輩。山本先輩にニッコリ微笑むと――


「それならさ……次は、僕のことを好きになればいいよ。
 そのとっておきの本命チョコも、僕が貰ってあげるからさ」


 なんてことを、さらりと言ってのけた。


「えっ……えぇーーっ!?」


 これには、言われた山本先輩はもちろんだけど、黙って聞いていた俺も菜子も、声を上げてしまう程に驚いた。


「何言ってんのよ佐原君っ、バカにしないでよっ。
 ワタシのこと、好きじゃないクセにっ……」

「ううん、好きだよ。
 みんなが緊張している中で、一人堂々と論文を発表していてカッコ良かったところも、
 いつも乗っているバスで、お年寄りの方や妊婦さんに快く席を譲ったりするところも、
 道の隅に咲く花を見かける度に、『可愛い』と嬉しげに反応したりするところもね」

「や、やだ……。そんなとこまで見てたの?」


 山本先輩が恥ずかしそうにして俯く。


 佐原先輩って、山本先輩のことが好きだったんだ……。

 あ。だからさっき――

(山本さんのこと、どう思ってる?)

 って訊いたのか。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ