俊光と菜子のホントの関係
第2章 『俺と菜子』
部屋のドアの前に立ち、コンコンッとノックした。
「菜子ー、俺だけど。水持ってきたぞー」
…………無反応。
「おーい、菜子ー?」
同じく、無反応。
これはもしかして……眠ってるな?
「……入るぞ」
ドアをそうっと開けて、中を伺うと……案の定。
姿勢の正しい仰向けで、スースー寝息をたてている。
なんだ。緊張してた分、拍子抜けしたな。……ま、いいか。これは勝手に置いておこう。
部屋の中に入り、ベッドに近い机の上にお盆を置いた。
ふーん……。しかし、よく眠っているな。俺が入ってきているのに、全然起きる気配がしない。
何気なく菜子に近づき、顔色を見下ろす。まだ赤みを帯びているけど、母さんの言うとおり、熱は昨日よりかは下がっていそうだ。
「…………菜子?」
近くで囁いても起きない。よっぽどだ。
「なら……これならどうだ」
イタズラ心に火が付き、菜子の鼻を軽く摘まんでみた。
「ん? んんー…………スー……」
「ぷっ」
スゲーな、まだ起きねぇ。
なんて、病人相手のイタズラはこの辺にして、そろそろ出るか――
「っ……んー……と…………く……」
「あっ」
ヤバ、起こしたか?
けど、目はしっかりとつむったまま。
なんだ、寝言か。
「ん……俊光……君……」
「っ……え?」
「俊……光く……えへへぇ……スー……」
「は……」
な……んだよ、その寝言は。
はにかみながら俺の名前呼んだりしてさ。
それ……何の夢だよ、菜子。
頼むから、眠ってる時にまで俺の気持ちを揺さぶらないでくれ。
じゃないと、俺――抑えきれなくなる。