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俊光と菜子のホントの関係

第17章 『重なる、兄妹のホントの想い』


 だらけた顔を引き締めようとしたら、コンコンっと引き戸から軽やかなノック音が。

「あ、はいっ」と返事をすると、戸がガラリと開いた。


「……池崎君?」

「あ。佐原先輩」


 山本先輩とかと一緒ではなく、佐原先輩一人だけ来たみたいだ。


「時間、もう過ぎてるから呼びに来たんだけど」

「えっ……!? あっ、ホントだっ」


 時計を見れば、もう10分も過ぎてる。菜子とのことで、バイトの時間をすっかり忘れてた。


「す、すみませんっ、先輩っ」

「いや、いいんだよ。妹さんも来てるし……ん? 妹さん、大丈夫?」

「えっ?」

「顔が赤いみたいだけど……具合でも悪くなった?」


 佐原先輩が菜子を見て、心配そうに訊いてきた。

 菜子が顔が赤いのは、怒ってて興奮状態にあるからだと。だけど、佐原先輩はもちろんそんなことを知らないから、

「一緒に帰ってあげたら? 妹さんを一人で帰すのも心配でしょ」

 と、優しい提案をしてくれた。


「え、でも……」

「池崎君は今度金曜日が休みだよね? それと振り替えたら大丈夫だと思うよ。僕からも事務の人に話しておいてあげるから」

「はぁ……」


 ホントは、菜子は具合が悪いわけじゃないんだけど……確かに菜子とはもっとよく話をしておきたい。

 それに、菜子は今はこうしてプンスカ怒っているけど、一人になっていろいろ想いを巡らせたら、きっとあとから悲しんだりするかもしれない。

 事実が事実なだけに……。

 先輩にウソをつくことになるけど……今は、菜子のそばにいよう。ていうか、俺が一緒にいたい。

 半分菜子のため、半分自分のために、先輩の言葉に甘えることにした。


「じゃあ、そうさせてもらいま――」

「っ、だっ、大丈夫ですっ!」

「っ、菜子?」


 俺が言うのを阻止するように、菜子が慌ててセリフを被せてきた。


「一人で平気ですっ。元気がないのは、具合が悪いんじゃなくて、兄と言い合いになっただけなんで。すみません、ご心配かけましたっ」


 言い合いって……。まぁ、あながち間違いでもないけど。


「そっか。大丈夫なら良かった。
 じゃあ池崎君、妹さんとちゃんと仲直りしてから来なね」

「は、はい……」


 佐原先輩はメガネの奥の目を細めてクスクスと笑いながら、スタッフルームをあとにした。


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