俊光と菜子のホントの関係
第19章 『二人きりの夜道』
自転車が颯爽と横切っていった気配を感じ、顔を菜子からそっと離した。
キスでのぼせきった頭のままで、菜子をぼんやりと見つめる。視線を合わせた途端に、菜子は恥ずかしそうに目を伏せた。顔色も、またタコみたいに真っ赤っかになっている。
兄妹の垣根を越えてのキス。ほんの数秒間重ねただけなのに、離れても、唇には感触と、そして味までもが、まだしているみたいに残っていた。
菜子の唇は、菜子特有のモチ頬よりもフニッとした柔らかな感触で。
味は、昔からよく言うレモンの味……じゃなかった。程よく甘いけど少し酸っぱ味もあるそれは――菜子がいつも美味しそうにコクコクと飲んでいる、オレンジジュースの味だった。
キスまでもが菜子らしくて、そんなのもう可愛いでしかなくて……もう一度キスがしたくなってしまった。
したくなったけど、ホントにもう一度したら、また『もう一度』、更に『もう一度』と止まらなくなって、延々と菜子とし続けてしまう。ここは、家から数十メートルしか離れていない近所の夜道だということを忘れてはいけない。
それに……俺達兄妹の帰りを、父さんと母さんが家をあたたかくして待っている。
菜子と一緒に、おんなじ家に帰ろう。
「菜子。帰ろっか」
「あ……うん、帰ろっ」
俺のポツリとした一言に、目を伏せてた菜子が、無邪気にコクンと頷いて応えてくれた。
キスしてる間もずっと繋ぎっぱなしだった恋人繋ぎを、改めてギュッと繋ぎ直すと、あともう少しで終わる帰路を、菜子と一緒に歩きだした。