
俊光と菜子のホントの関係
第3章 番外編『オレと俊光』
「あははっ、おかしいヤツー」
「なっ……さっきからなんだよ! 初対面だろ! ていうか、いつまで走らせるんだよ!」
「いいからいいから。
いやーしかし……オレはてっきり、女性キラーかと思った」
「は? 何て?」
後半のセリフはポソッ程度に呟いたから、コイツの耳には届かなかったようだ。
「何でもねぇよ、天然っ」
「天然って呼ぶなっ! 知らないヤツにまで言われたくねぇし!」
「……もう知らなくないだろ?」
「え?」
「名前教えたじゃん。『久我智樹』って」
「あ……確かに」
素直っ。ますます気に入った。
「んで? お前の名前は?」
「俺は……池崎俊光」
「ふーん、池崎俊光かー」
名前までイケメンかよ。響きも心地よく感じるし。いやーまいったなぁ。オレ、コイツに惚れちまったかな? なーんてな。
「じゃあ……これからよろしくな、『俊光』!」
いきなりで馴れ馴れしいだろうが、下の名前で呼んでみた。
するとコイツは、不意を突かれたかのように目を少し白黒させてから――
「あ……あぁ……。えーと……『智樹』?」
と、オレに釣られるように下の名前で呼んできた。
少しも嫌な顔をしないで呼んでくれたのが素直に嬉しくて、不覚にも野郎相手に顔が緩んでしまった。コイツ、異性だけでなく、同性をも天然で魅了させる気かよ。
まぁ……それでも――
(ほら。『久我君』じゃなくて、下の名前で呼んでみろよ)
(………と………トモ、君…………)
……アイツには負けるけどな。
思い出したことで更にだらしなく緩んだ顔を、しかと引き締め直してからコイツの方へ向けた。
「そっ。よく出来ましたー!」
調子よくそう言うと、コイツはやっと――
「……ははっ、何だよそれー。俺は子供かっ」
お、笑った。やっぱイケメンだな。
しっかし、桜の中で一緒に笑いながら走るって、青春かよ。
誰かとこんなことをするつもりなんて、さらさらなかったのに。深入りする友達なんていらなかったのに。
なんか、コイツになら……俊光になら、いつかいろいろを話せそうな気がする。
――アイツとのことも。
あーあ。俊光のせいだ。
こうなったら、とことん仲良くしてもらうからなっ。
