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俊光と菜子のホントの関係

第24章 エピローグ『感謝』






 ――菜子に無邪気な笑顔で見送られてから、数時間後。

 俺は美都子と、早めの昼食を取ったあと、目的の場所の一つでもある、高台の霊園にたどり着いた。

 霊園と言っても、場の空気は全然おどろおどろしくない。同じ敷地内に、子供がのびのびと遊べる公園や、ゆるりとピクニックが出来る広場も兼ね備えているから、雰囲気が和らいでいるように感じる。

 敷地の端には、黄色い菜の花も、ちらほらと可愛く咲き始めている。もう少ししたら、全体を囲うように咲きこぼれ、来月の後半には、満開の桜とのコラボレーションも見られる。だからその時期だけは、花見を兼ねてお墓参りをする人達と、ただ花見目的で来る人達とで、霊園が賑わいを見せるんだよな。

 水の入った木の手桶を持ったまま、俺は外の空気を、鼻からすうっと吸い込んだ。温泉地というのもあって、澄んだ空気に加え、かすかに硫黄の匂いも混じって体内に入ってくる。それを息にして、静かに吐いた。

 いやぁ……それにしても、実にいい天気だ。身が縮こむぐらい寒い季節だけれど、太陽の陽射しが暖かくて心地いい。

 見上げれば、雲一つない爽快な青い空が、壮大に広がっている。その空の下には、時の流れが穏やかそうなのんびりとした町と、町の向こう側に見えるスカイブルーの海。後ろを振り返ると、山と山の間から、日本一の山が勇ましくそびえ立っているのが眺められる。

 ……今日は、参るのに最適な日だな――


「ねぇー聞いてよぉーっ。俊光と菜子ったらね、この前、深夜にプロレスごっこして暴れてたのよぉ。もう大学生と高校生なのによ? ねぇ、いい歳こいて信じられないでしょう?」

「っ……美都子っ……」


 快晴と美しい景色で気持ちよくなっていたところだったのに、美都子の刺々しい愚痴のおかげで、気分を壊された。

 しかもその愚痴を、俺にではなく……

『感謝』と掘られた墓石に溢している。

 グレー系の光沢のある御影石(みかげいし)で造られた洋型の墓石は、美都子の愚痴を聞かされても当然、相づち等をするわけもなく、静かに佇んでいるだけだ。


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