俊光と菜子のホントの関係
第24章 エピローグ『感謝』
「美都子。お前がアイツとの間でいろいろあったのは、重々わかっている。けどな、元々は同じ店舗を支え合ってきた仲間だったんだぞ。その仲間が、夢をやっと実らせたんだ。素直に喜びに浸ったっていいだろ」
鬼にならないよう穏便に返したつもりのセリフが、逆に美都子の火に油を注いでしまい……
「またそうやってお人好しなことを言うーっ。勝治さんだってあの時、春香と一緒に聞いていたから覚えてるでしょ?
呼人が『今すぐにガキをおろせっ!』つってマジギレして、お腹の子供を殺そうとしたことをっ!」
「いっ……!? 美都子っ、霊園(こんなところ)でそんなことを大きな声で言うなっ! 不謹慎だぞっ!」
喚く美都子に俺は焦り、慌てて黙らせた。周りをそうっと見渡すと、お墓参りに来ている人達の視線が、冷たくて痛い。当然だ。美都子と共に肩身を狭くしながら、「すみません……」と小声で謝り、そそくさと場を離れた。
はぁ……やれやれ。八木君の話題に関しては、一歩でも踏み外すとすぐこうなる。
「お前というやつは。もう二十年近くも前のことに、いつまでも昨日のことみたいに怒るなよ」
「だって、アイツと来たらっ……」
周りに申し訳なさそうにしながらも、まだ不服そうに口を尖らせている。
まぁ確かに、あの時の八木君の態度もよろしくはなかったが……
元はといえば――当時恋人だった八木君を、美都子が騙して勝手に身籠ったのが悪かったんだろう……と、例の如く言い返したいところだが、ここでこれ以上の言い合いはしたくはないし、してはいけないから、黙っておくけど。
「もういいじゃないか。お腹の子供は無事に生まれて――
もうすぐ成人を迎えるまでに育ってるんだから」
「それもそうなんだけど……」
「八木君も、五人の子供を持つ父親になったもんな」
「……それ、私からしたら、未だに信じがたい話だわ。『おろせ』と罵倒したヤツが、五人の子供の父親って……。ホントに大丈夫なのかしら?」
「大丈夫だろ。八木君だって、あの頃よりも考え方が大分緩和されたし。奥さんも相当強いみたいで、八木君の手綱をしっかりと握っているらしいから」
夢に対してずっと燻(くすぶ)っていた八木君が、店を開くまでに至れたのも、きっと奥さんが背中を押してくれたりしたのかもしれないな。