俊光と菜子のホントの関係
第24章 エピローグ『感謝』
「あーもうっ。アイツなんかの話をするから、時間がなくなってきちゃったじゃないっ」
「お前から八木君の話を振ってきたんだろうが……あ。そういえば、まだ店の名前も聞いてなかったな。何て言うんだ?」
「そんなのもういいから、早く行きましょっ」
「おい、名前ぐらい今教えてくれたっていいだろ」
「はいはいっ、行きましょ行きましょっ」
美都子は一方的にせっつき、先につかつかと歩きだした。
たくっ、ホントにやれやれなヤツだな。話題を振るほど気になっていたのなら、俺と一緒に、八木君の成功を素直に喜べばいいのに。
……きっと今のやり取りに、春香も今頃、あのしなやかな声で『もーう、美都子ったらー』って少し呆れながら、謙虚に笑ったりしているだろうな。
美都子のあとを追いながら、もう一度、一瞬だけ、『感謝』と掘られた墓石の方へ振り返った。
この地に来ると、春香のことを鮮明に思い出す。
さらさらなストレートヘアに、ふんわりとした柔らかい雰囲気。
それと……あの鼻歌を歌う声色も。
(――ふんふんふーん、ふふふふふーん……)
(春香って、事あるごとにその鼻歌を歌うよな)
(そうなの。亡くなったお父さんが、この鼻歌を楽しそうに嬉しそうに歌ってるのを、赤ちゃんの頃からずーっと聴いていたから、私までクセになっちゃって)
(そしたら今――直接聴いているお腹の子供も、その鼻歌がクセになるんじゃないか?)
(本当ね。もしそうなったら、一緒に歌うことが出来るわね。なんて……ふふっ)
「…………」
事実を打ち明ける時、菜子に『お前がいつも歌っている鼻歌は、実は……お前のおじいちゃんにあたる、春香のお父さんが作曲者なんだ』『それを春香が、お腹の中にいた菜子にも、ずーっと聴かせていたんだぞ』って教えたら、無邪気に驚きそうだな。
その菜子が容易に想像つくと、自然と顔が綻ぶ。……と同時に、その菜子を、愛おしそうに見つめる春香も容易に想像ついてしまい、目頭まで熱くなる。
家族の事実には、悲しくて辛い部分もあるけれど……
びっくりさせるような部分もあり、
早く教えてやりたいと思う、温かい部分もたくさんある。
だから春香。その時が来たら、俊光と菜子に、全てを上手く伝えられるように、見守っていてくれな……