俊光と菜子のホントの関係
第27章 特別編『菜子の誕生日お祝いデート(前編)』
――じゃんけんで勝敗が決まると夕飯の時間となり、今は家族四人で和やかに食卓を囲っている。
「ふんふんふーん、ふふふふふーん」
俺の左隣からは、定番の鼻歌がBGMのように流れていて、リビング中に軽快に響き渡る。
菜子のヤツ、じゃんけんで決めてから、ずっとこうだ。
菜子は上機嫌に鼻歌を歌いながら、ダイニングテーブルの中央に置かれた唐揚げを箸で摘まみ、口の中へと運ぶ。
「んー、おいひぃー」
すでに四個目という熱々の唐揚げを、ハフハフと冷ましつつも幸せそうに噛みしめている。その無邪気な様が小さな子供みたいで、見ていると頭を撫でたくなる。
菜子はモグモグしていたのをゴクンと飲み込むと、
「お父さん、お母さん。今度の金曜日、俊光君と二人で出掛けてくるからねっ」
テーブルを挟んで向かいに座る父さんと母さんに、生き生きと伝えた。
お前……そのセリフ、今のでもう四回目だぞ。唐揚げを食った個数と一緒。……ってことは、お前はまさか、唐揚げを食う度に、おんなじ報告を繰り返すのか?
俺が菜子の傍らで『マジか』と思う一方、父さんと母さんはというと、繰り返し聞かされていても嫌な顔をすることなく、微笑みを絶やさないでいる。嬉しそうにニコニコする娘が、よっぽど可愛いんだろうな。
家族が和やかムードなのは大いに結構なんだが……誘った俺は、あんまり繰り返されると、だんだんと気恥ずかしくなってくるんだけど。
俺は、茶碗で顔を隠すようにして持ち上げて、もうわずかしかないご飯を、口の中へ掻き込んだ。
「兄妹水入らずのお出掛けかぁ。いいなー」
「ねぇねぇ。お兄ちゃんとどこに行くのか、お父さんとお母さんにも教えてよぉー」
「えへへ、ダメーっ。まだ二人だけの秘密だもん」
「…………」
しっかし菜子って、じゃんけんで気が焦ると、必ず『パー』を出してしまうっていうクセ。昔から変わらねぇのな。
だから俺は、わざと勢いでじゃんけんをして、菜子を焦らせたんだ。
菜子の勝ちにして――『遠出』に決定させるために。
したら案の定、慌てて『パー』を出した菜子は、『グー』を出した俺に勝つと、無邪気に驚いて大喜び。それに加え、やっと行き先が決まった安堵感からか、すんげーニッコニコになって……今に至ると。