俊光と菜子のホントの関係
第27章 特別編『菜子の誕生日お祝いデート(前編)』
出た結果に対して、ガッカリされなくて良かった。俺個人的には、いつでも行けそうな近場よりも、めったに行かなそうな遠出をプレゼントしたかったから。
せっかくの誕生日のお祝いだし、さっき菜子も言ってた『両想いにもなって初めてのデート』……だしな。
菜子のクセを知っていてじゃんけんを持ちかけたってのは、ちょっと卑怯な手だったけど……こうして喜んでくれてるから、いいよな。
「お父さん、お母さん。今度の金曜日、(以下同文)」
……ぷっ。これで五回目。ここまで来ると、気恥ずかしい通り越して、なんだか笑えてくるぞ。
俺はとうとう堪えきれず、菜子の隣でクククと肩を揺らした。
それ以降も菜子は、口に入れた唐揚げの数だけ、同じ報告を繰り返した。
「ふぅー、ごちそうさまぁー」
椅子に深く寄りかかって、主に唐揚げが詰まっている腹を、タヌキの腹鼓(はらつづみ)みたいにポンポンと叩いている。腹も気持ちも、やっと満足したみたいだな。
ポンポンタヌキの菜子は、少しだけ食休みをしたあと、自分の使った食器類をまとめて流しに置き、また鼻歌を歌いながらリビングから出ていった。
「……ふふっ。菜子ったら、俊光と出掛けるの、よっぽど楽しみなのね」
母さんが、食後の緑茶を急須で注ぎながら、クスクスと笑う。
「唐揚げを食べながら、おんなじことを十回も報告するぐらいだもんな」
父さんも、受け取った淹れたてのお茶を、熱そうに啜っては、母さんと同じようにクスクスと笑う。
二人のクスクスが、いなくなった菜子の分まで俺に向けられる。照れ隠しに、俺も出されたお茶を啜った。
「ところで俊光。遠出って、どれくらい遠くまで行くつもりなの?」
「……ここから途中で快速線に乗り継いで、一時間半ぐらいのところだよ」
俺にも興味津々に訊いてくる母さん。『まだ内緒』と言っていた菜子を尊重して場所は言わずに、そこまでかかる時間だけを教えた。母さんは、それだけでも満足そうに「ふーん」と頷く。
「そうか。日帰りの小旅行をするにはちょうどいい距離感だな。二人とも、もう大学生と高校生だから、そこまで心配はしてないが、当日は気をつけて行くんだぞ」
「うん、わかった」
父さんは少し気に掛けつつも、俺と菜子が小旅行することには、なんだか嬉しそう。