俊光と菜子のホントの関係
第27章 特別編『菜子の誕生日お祝いデート(前編)』
私ってば、こんなこと言っちゃって。俊光君きっと、『ワガママを言うな』って怒るよね。
覚悟して、俯いた。
「ひゃっ……」
頭の上に優しい温もりがポンッと乗って、ちょっとビックリしちゃった。
え? 俊光君……私の頭を、なでなでしてくれてるの?
そっと顔を上げて見てみれば、柔らかい笑みまで向けてくれている。
ワガママな私に……怒って、ないの?
「俊光君、あのぉー」
「わかった」
「へぇ?」
「なら行くぞ」
「ひゃあっ」
俊光君が、いきなり手を強く掴んできたぁ!
そんでもってそのまま引っ張って、乗り換える駅の方へずんずん進んでいく。
「えっ、えっ? なになにっ?」
強引に引っ張られてコケそうになりながらも、何とか俊光君の速度に合わせて付いていく。
「俊光君っ、ちょっと待ってってばぁっ! 急にどうしたの!?」
「いいからいいから」
いいからいいからって言われても……。謎のまま連れていかれると、いくら相手が俊光君でも、不安になっちゃうんだけどーっ!
なのに俊光君はお構い無しに、どんどん突き進んでいっちゃう。
雰囲気的に、家に帰るんじゃなさそう?
てことは、もしかして俊光君……怒ってないと見せかけて、実はとんでもなくムカついていて、ワガママ言った私を、どこかに置き去りにしちゃうんじゃっ……。
ますます不安がる私を、俊光君はしっかりと掴んで離さないまま――
二人分の切符を買って改札に入って、地元とは真逆に向かう快速線に乗り。
私が『どこまで行くつもりなの?』とハラハラしちゃうぐらい、電車に揺られ続けて。
私が見たことも聞いたこともない駅で、ようやく降りた。
けど、『一体全体ここはどこ?』と辺りをキョロキョロする間もなく、引き続き手を引かれ、駅前で待機していたタクシーにそそくさと乗らされる。
俊光君が「ここまでお願いします」とメモ紙みたいなのを渡したら、運転手のおじさんは「はい、わかりました」と素直に発車。
そうしてこうしてワケがわからないまま、行き着いたところは――
「へぇ? ここって……『旅館』?」
「あぁ、『旅館』だ」
なんとなんとの、旅館。
それも、お口があんぐりしちゃうほどの、ご立派な建物。
古き良き建物です感、半端ない。