俊光と菜子のホントの関係
第27章 特別編『菜子の誕生日お祝いデート(前編)』
お口あんぐりしたまま、玄関口の上に飾られた木の看板にも注目してみると、『旅館 浦乃花』って掘られてる。建物だけじゃなく、看板までもご立派。
「ねぇねぇ。あの名前、『うらのはな』って読むの?」
「惜しい。あれはな、『うらのか』って読むんだよ」
「へぇーそうなんだぁ。いかにも旅館っぽい名前だねー……」
って、ちょっとちょっと! お父さんみたいに、呑気にのほほーんと感心している場合じゃないよぉ!
「俊光君っ、どうして私をここまで連れてきたのっ?」
私が腕をグイグイ強く引っ張って問い詰めてるのに、俊光君はくすぐったそうに笑っている。
「だってお前……まだ帰りたくないんだろ?」
「へぇっ? う、うん……そうだけど……」
「ならさ、いっそうのこと……今日は家に帰るのをやめようぜ」
「…………へ?」
今……何て?
「帰るのをやめて――二人でここに泊まろうぜ!」
「ふっ……ふへえぇぇーっ!?」
私をどこかに置き去りにするんじゃなくて……
二人でここに泊まろうぜぇーっ!?
いやいやっ、俊光君っ! そんなことを、数日前の『二人でじゃんけんして決めようぜ!』とおんなじノリで、簡単に言うことじゃないでしょーっ!
私、ビックリを通り越して、お口あんぐりが、よりあんぐりになって、アゴが外れかけちゃったじゃん!
何かしらを言ってやりたいのに、アガアガしてなかなか言えなぁーい!
「いらっしゃいませ。ようこそ浦乃花へ」
「あ……あが?」
玄関口から、白地にお花模様が描かれた着物を着た女の人が、私と俊光君のいるところまで、すすすと小走りで来た。
……私、知ってる。こういうお上品な和風美人さんのことを、『大和撫子』って言うんだよね。
「失礼ですが、ご宿泊のお客様でございますか?」
「ふえっ……!?」
ひゃーっ、私に話しかけてきたぁ! 微笑みも素敵で眩しーっ!
どうしよ……。とにかく、私もお上品に会話しなきゃ!
私は急いでアガアガを治した。