俊光と菜子のホントの関係
第28章 特別編『菜子の誕生日お祝いデート(後編)』
「したら……お父さんとお母さんには、連絡しなくてもいいの?」
「あぁ」
「明日家に帰るまで……俊光君のことを、ずっと独り占めしていてもいいの?」
「あぁ。俺も、菜子をずっと独り占めだ」
「俊光君……」
瞳を熱っぽく潤ませる菜子の唇に、自分の唇をそっと重ねた。
これが、今日初めてのキスだ。
「……えへへ。俊光君と海で出来なかったのが、やっと出来たー」
無邪気に嬉しそうにされると……もっとしたくなるだろ。
「菜子っ……」
「っ、んんっ……」
ぽってりとした唇も、俺に抱きつく肉付きのいい体も、ほんわかと温かくて、ふかふかで柔らかい。
もっと、菜子を感じたい。
このまま、菜子を押し倒して、
そのまま……菜子と最後まで……
「おくつろぎのところ、失礼致しますー」
「はっ、はいぃーーーーっ!」
小気味良いノック音と、しとやかな声が聞こえてきたのとほぼ同時に、高速度で菜子から離れた。
あ……焦った。一瞬、いきなり入ってきたのかと思ってしまったけれど、旅館の人がそんな無作法なことするわけないよな。
顔を赤くする菜子をそのままに、ドキマギしながら出入り口の引き戸を開ける。そこには若女将さんが、何やら生地のような物を両手で大事に持って、姿勢正しく立っていた。
「先程、浴衣の絵柄をお選びしたいとのことでしたので、いくつかご用意させていただきましたが……今、よろしいでしょうか?」
「あ……はい。お願いします……」
若女将さんは、俺達の『何かしら』に感づく様子もなく、「失礼致します」と丁寧に入っていった。
ていうか俺……菜子が可愛いからって、着いたそばから盛(さか)るなよ。