俊光と菜子のホントの関係
第28章 特別編『菜子の誕生日お祝いデート(後編)』
反省をしてから、遅れて中の方へ戻ると、
「うわぁー、全部キレー!」
菜子が、畳に広げられた浴衣達を見て、目をキラキラと輝かせていた。
キスをしていたばかりなのに、潤んだ表情も、顔を染めていた赤色も、もう一ミリも残ってない。コイツ、気持ちの切り替え早いのな。俺はまだ余韻があるってのに。
「当旅館のは全て特注品でして、他にはない浴衣なんですよ」
「へぇー、すごい特別感! ますます迷っちゃうー」
「どうぞ、ごゆっくりとお選びになって下さい。男性用も取り揃えてございますので」
えっ、俺のも?
つい顔が引きつる。
「いえいえっ、俺はいいですっ。絶対似合わないし」
若女将さんがせっかく持ってきてくれたけど、全力でお断りした。
俺が浴衣なんて、ちゃんちゃらおかしい。想像すらしたくない。
「何言っちゃってんの、俊光君ってばー。旅館にまで来ておいて浴衣を着ないなんて、ナンセンスだよー。ほらっ、これなんて似合いそう!」
なのに菜子は、お断りを許してくれず、無邪気に浴衣を俺の体に当ててくる。
「いいってば。俺はナンセンスでも構わない。お前だけが着ろよ」
「えー、私だけなんてつまんない。一緒に着ようよぉー」
「嫌だ」
「着ようってばぁ!」
「嫌だって言ってるだろっ」
二人でワーワー騒ぎながらの押し問答が続く。次第に、正座をしている若女将さんが、ふふふと小さく肩を揺らしだす。
「あっ。すみません、俺達うるさくて……」
「いいえ、とんでもないです。本当に仲のいいご兄妹で、和みます」
「ははは、どうも……」
俺達って、どこへ行っても笑われるな。