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俊光と菜子のホントの関係

第4章 『私と俊光君』







 そして次の日。登校すると、下駄箱で会った明里が、心配そうにして寄ってきた。


「菜子ぉ、おはよ。昨日……あれから大丈夫だった?」

「うん、なんとか。反省文も書き終わったし」

「そう……」

「ごめんねー明里。心配かけてー」

「それはいいんだけど……」


「おい、牛女」


 少し離れたところから声をかけてきて、ジッと私を睨み付けているのは、


「……山田っ」


 よく見ると、昨日殴った痕(あと)が、口の端にまだ残っている。


「何よ。昨日のケンカじゃ、まだ足りないワケ?」

「ちょっと菜子。もうやめてよー……」


 二度目のお説教と反省文、上等だもんっ! コイツのこと、まだ許してないしっ。

 ケンカを想定して戦闘体制に入ろうと思った。けど……


「……悪かったよっ」

「…………へぇ?」


 山田……今、何て?


「お前の兄ちゃんに言ったこと、悪かったっつってんだよっ」

「ウソ……」

「悪かったし、取り消してやるよっ」


 ぶっきらぼうな言い方だけど……あの山田が、謝って取り消した。


「これで文句はねぇだろっ」

「あ、うん……」


 意外すぎて、逆にどう反応していいのかわからない。なんか調子が狂っちゃう。


「けどなぁ……」

「何?」

「お前に対して言ったことは、何があってもぜってぇーに取り消さねーからなっ」

「私に対して言ったこと? …………あ」


(自分の兄ちゃんのことを、『好きな男』として見てんじゃねぇのー?)


 あれかぁ……。

 私……その事を一晩中考えてたんだ。

 自分のホントの気持ちを。

 絶対にダメだって否定しても、私は――



「……別にいいよ。取り消してくれなくても」

「あ?」



「だって私……俊光君のこと、
『好きな男』として見てるもん」



「なっ……」

「菜子っ……」


 山田も、明里も、言葉を失ってる。



 実のお兄ちゃんを好きだなんて、あり得ないよね。

 だけど……そうなんだって知っちゃったんだ。

 今まで何でこんなに好きなのか、よくわからなかった。

 ただの『兄ラブ』かと思ってた。

 だけど、それだけじゃなかった……。


 俊光君のことを一人の男の人としても好きなんだって、素直に思えるんだ。




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