月が綺麗な夜は。
第1章 歪んだ二人
「……フッ、ざまぁ見やがれ…
今回も随分綺麗に付いていやがる」
振り返った辰馬の肩には
俺が絶頂を迎えると同時に付けた噛み跡が
くっきりと青紫色になって、
薄暗い部屋で月明かりに照らされ
浮かび上がっている。
「……」
俺の皮肉を無視して、服を着終えると
また背を向けて「じゃあな」と一言を残し
障子を閉め部屋を出て行った。
残された俺はまだ軋む身体を起こして
窓に凭れ掛かる。
「…ったく、毎度毎度、乱暴にしてくれやがる」
溜息をつき
ふと、下を見ると宿を出た辰馬が目に止まった。
帰路につく後ろ姿を見つめる。
俺が付けた噛み跡。
そいつが消えるまでは
辰馬はアイツを抱けない。
ほんの少しの間、辰馬は俺だけのものになる。
あの噛み跡が消え、
今日の様に月が綺麗な夜に、
またお前を此処で待つ。
「…消えれば何度でも付けてやらァ…
次も此処で待ってんぜ、辰馬…」
辰馬の背中にそう呟くと、
憎いアイツによく似た月へ煙管の煙を吐き出した。