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Fake it

第1章 2018 秋

【智side】

「もしかして孝太郎さん?
珍しいね、貴方が仕事関係の人と親しくなるなんて」

「……まぁね」

きっと今、翔君は、よそ行きの顔で笑ってるんだろうな、と思う。

いつからか翔君は、オイラに対して言いたいことを飲み込むときに笑顔を作るようになった。

あんなに優しい顔で笑う人なのに、作り笑顔を向けられると悲しくなる。
だからオイラは振り返らない。

怒っているのか、怯えているのか。
傷ついているのか、呆れているのか。

またネットで翔君のコイビトって言われてる女性のことがニュースになってたから、それで何か、悩んでるのかもしれないけど。

ガキの頃ならいざ知らず、今のオイラが大人になったメンバーにしてやれることなんて、もうない。

翔君が自分からオイラに相談してこない限りは、立ち入ることは出来ない。

そして、翔君は、絶対にそれをしない。



「ねぇ、今日の気分は?」

背中に居る翔君が、体をかがめてオイラの耳元で言った。

他人に聞かれてもわからないように会話に気をつかっているうちに、いつの間にか定着した二人だけのやりとり。

翔君がこう訊いてくる時は、夜のお誘い。

オイラが誘いを断る時に、いつも、今日は気分じゃない、って言うから。

今では最初から、今日の気分は?って訊いてくる。

つまり、やらせろ、ってこと。

「……いいよ」

わかってて、やってんだろ?

その声で、耳元で命じられたら、オイラが逆らわないって。

顔を見ないまま返事をすると、翔君の手がオイラの頭に一瞬乗って、スッと撫でた。

「寝ぐせ」

声が優しくなってる。

「…ん…」

オイラに出来ることは、何も気がついていないふりをするだけ。

変わってくものと、変わらないもの。

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