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Fake it

第1章 2018 秋

【翔side】

ライブの打ち合わせ後、智君は送りの車で先に帰宅し、俺は時間をずらして、タクシーで智君の部屋へ向かった。

「おみやげ」

底の広い持ち手付きの紙袋を差し出すと、受け取った智君が、中に入っている桐の箱を見て不思議そうな顔をする。

「何これ?人形?」

だはっ(笑)。

「何で人形?なわけないでしょ
風呂、借りるよ」

「うん…ずっしり…重いねぇ…」

智君はもう部屋着に着替えてるからシャワーを浴びたんだろう。
額にかかる前髪がまだ湿ってる。

首をちょっと傾げて、紙袋を覗き込んでいる姿が可愛らしい。

開けたらどんな顔をするかな、と思う。
きっと嬉しそうにちょっとだけ笑って、いつもみたいに俺を見上げるんだ。

「待っててね」

俯いたままの頬に指の背で軽く触れても、視線を上げない。

この人はいつもそう。
尻尾を振って傍に纏わりついたりはしないけど、撫でられても嫌がらないで受け入れる。
相手のプライドを傷つけないように。

頼むから、俺達(メンバー)以外には触れさせないでよ。
政治家の息子なんて、冗談じゃない。

自分のことは棚に上げて、俺は腹の中で毒づく。

勝手知ったる他人の家で、俺は脱いだ上着をソファの背に掛けると、そのまま浴室に直行した。





メンバーにも、当然、事務所にも、秘密のまま続いてる、俺と智君との関係。

こうなってから、もう随分と経つ。

その間、あの人も俺も何度か引っ越しをしたけど、いつの間にか、会うのはいつも智君の部屋、というのが当たり前になってた。

別に俺の部屋が駄目だっていう理由があるわけじゃない。

昔は、会う約束をして俺の部屋で待っていたって、よくあの人にすっぽかされて。

智君が逃げないように、アポなしで突然に部屋に押し掛けてるうちに、何となくこうなった。

求めるのはいつも俺の方ばかりだったから。

俺達は、身体だけの関係。

先のことについて何の約束もないし、付き合ってるわけでもない。

ふと思うことがある。

いつまで。

いつまで?





俺達って、いったい何なんだろうね。

俺は、この頃ちょっと、キツイなと思うよ。

自分がこのまま、一体いつまで貴方の傍に居続けることが出来るのか、って。





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