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Fake it

第4章 Blue dream

【翔side】

「今のところは政界には進出しないって明言してるけど、弟さんも情熱的で志のある人だし。
支持者に口説かれたら断り切れないのは良くあることだよ」

「…孝太郎さんは、そういう人じゃないよ」

「うん、わかってる。
ねぇ、
今回お世話になる件だけど、
例えばだけど、
いつか彼が困ったことがあったら、その時には貴方が助けるとか、
そういう約束してないよね?」

「…………」

「智君?」

返事が無いから、仕方なく新聞から目を離して智君を見た。

「…………」

智君は、知らない人を見るみたいな顔をしてた。

「ごめん」

気分を害したことがわかって、咄嗟に謝罪が口をつく。

凍ったように固まった表情をほぐしたくて。
悪気があって言ってるんじゃない、って分かって欲しくて。

笑いかけたんだけど。

自分でも、嘘の笑顔になっている自覚はあった。

「翔君、自分が何言ってるかわかってる?」

「勿論、わかってるよ」

「全部、まだ起こってない話だよね?
それに政治って…
そんなのオイラから一番遠い話じゃん」

「気を悪くしたらごめん
でもリスク管理は必要でしょ?
どこからどう目を付けられるか分からないから。
例えば貴方が彼の応援演説とかに引っ張り出されることだって
可能性としてはゼロじゃないわけだから。
そうなったら、今の俺たち以上に監視されることになるよ?
貴方のプライベートどころか、ご家族にも迷惑がかかるかもしれない」

根掘り葉掘り調べられて、無いこと無いこと書きたてられて。
大事に隠してきた貴方と俺の関係が、続けられなくなるかもしれない。

何よりも、貴方がまた傷つくところを俺は見たくない。

何とか理解して欲しくて、極力穏やかに言ったつもりだけど。
話せば話す程、それを聞いている智君の気持ちが、どんどん遠ざかるのが目に見えるようだった。

「智君」

焦って笑いかけると、智君は俺に向かって掌を見せ、制止の仕草をした。
思わず息を呑む。

言葉で相手を拒絶することが無いこの人がこれをやるのは、もう、これ以上話したくない、って意思表示だ。

「もういい」

「待って、智君
話を聞いて」

「もういい、って言ってるだろっ」

席を立った智君は足音も荒く寝室へ向かって、中から鍵を掛けた。

俺が仕事に行くまでの間、何度呼び掛けても返事はなかった。





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