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Fake it

第4章 Blue dream

【智side】

身体を絞りたい、って理由で鍵を借りて、オイラは連日、ほとんど意地になって踊ってた。

この時期は、ライブに向けて事務所が用意してくれてるスタジオがあるんだけど。
5人でのリハが無い日は、オイラが優先的に使わせてもらってる。

練習場所なら自分で何とかするから、そこまでしてもらわなくても良いよ、って言ったんだけどね。

スタジオの予定表にオイラが使用したい時間を書き入れるまで、誰も自分の希望を書かないからさ。

結局は有難く甘えて、時間があると、ここに来て踊ってる。

ステージの完成度を自分のイメージに近づけたいのは勿論なんだけど。

正直、あまりにも情けなくて、自分を追い込まないではいられなかった。





頭を空っぽにして、細かいリズムを執拗に追いかけて行って。

何度も、何度も、同じ曲を繰り返す。

みんなが、オイラにまた踊らせたい、って言ってくれた懐かしい曲。

みっともない姿は絶対に見せられない。

踊って。

踊って。

踊る。

隙間に、チラッとよぎる顔があっても。

振り切るように、また踊る。





初めは、何でそこまで口出しされなきゃならないのか、って腹が立った。
オイラには翔君にそこまで言われる理由はない、って。

こういう関係になってからもずっと、オイラも翔君も、お互いのプライベートには口出ししないでやってきた。

束縛することも、交友関係に嫉妬することも、オイラ達はしたことがない。
言いかえれば、それだけの間柄でしかなかった。

そのことを淋しく思ったこともある。
それだけの関係なんだと、必死に自分に言い聞かせたことも。

それを今になって何なんだよ、と思った。





でも、時間がたったら。
そうか、と思い至ったんだ。

一番大事なものを危うくするようなことを、したらいけない、って。

オイラ達5人が創り上げてきたもの。
それを危険にさらすような真似は、やっちゃだめだ。

翔君は、別にオイラをどうこうしようとしたわけじゃない。
グループを大事に思ってるだけ。

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