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Fake it

第5章 Red heart

【翔side】

初めてあの人とそういうことをしたのは、一緒にミュージカルをやってた時。
二人で使ってたホテルの部屋だった。

公演の間、俺は自分があまりにも出来なくて、打ちのめされることばかりで。

それに比べ、京都で叩き上げたあの人は、何をやらせても完璧だった。

俺から見たら難しく思える要求にも普通にハイって返事をしてて、言われた通りに何パターンでもパフォーマンスを変えて見せた。

涼しい顔で、やすやすと、何でも出来るように思えた。

事務所のレッスンであの人が踊るのを初めて見た時から、上手いのは勿論知っていたし。

当時から努力してる姿を他人には気取らせない人だったから、誰も知らない所で人知れず練習してるだろうことも予想はしていた。

だけど、あの舞台で、才能の違いをまざまざと見せつけられて。

俺は出来ない奴の気持ちが初めてわかったと思った。





こういうことを言うのが上からの厭らしい考えだってことは分かってるんだけど、それまでの俺は、いつも他人から羨ましがられる立場の方が多かったんだ。

『何でも出来るんだね』

いつもいつも、そう言われてきて、正直うんざりしていた。

『お前みたいに何でも出来て、何でも持ってる奴がいるなんて神様は不公平だ』

そう言われるたびに、俺の何を知っているのか、と思った。

確かに俺に恵まれてる部分があることは否定しない。
いろんな環境を与えてくれた親や、巡り合った先生方、先輩、友人には感謝してる。

だけど、ただ単にそれだけが今の俺を作ったわけじゃない。

持たざる奴の気持ちは分からないだろう、と言うのなら、逆にお前らには、持てる者の気持ちが分かるのか?と言い返したかった。

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