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Fake it

第8章 ASK

【翔side】

俺、聞かない方が良いんじゃないだろうか。

そっと智君を見たら、俯いてて。
両手で包み込む様に持ってるコーヒーカップをジーッと見つめてる。

俺はルーティンでテーブルに新聞を広げた。

「いや、だから~
苦労かけたくないとかってことでしょ?
お前の優しさは知ってるよ
周りに反対されるとか、迷惑かけるとか
わかるけどっ

それってお前のリクツでしょ?
相手も同じように思ってんの?
ちゃんと話し合わないで頭で考えてもさ
煮詰まるだけなんだって

その理由も含めて話せばいいじゃんか
こういうわけで大っぴらには出来ないけど
君しかいない、ついてきて欲しい
って
何で言えないの?」

どうしたって耳に入ってくる相葉君のエキサイトしてる声に、俺は硬直してしまって身動きが取れない。
智君も無言だ。

「約束出来ない?
はぁ!?
ふざけんなよっ

出来ない約束はしない、
じゃなくてっ
約束してっ、実際にやるんだよっ
現実にするの!
出来ないかもしれなくたって
それでもお前のためにやるから付いてきてくれ、って言うのが男だろっ!!!」

相葉君は電話の相手を一喝すると同時に、勢い良く立ち上がる。

「いってぇ!!」

「うわっ!!」

立った拍子に膝かどこかをテーブルにぶつけたらしく、弾みで殆ど手をつけていなかった俺のコーヒーが零れた。

「翔君、大丈夫?
熱かったんじゃない?」

「あ、うん
もう熱くなかっ」

「馬鹿っ!!!」

今まで聞いたことがないくらいの大声で相葉君が頭上から叫ぶ。
俺と智君は思わず動きが止まって固まる。

新聞の上を流れて行く茶色の液体を、二人ただ見つめてるしかない。

相葉君の言ってることは正しい。

正しい。

「そんなの当り前だよっ
そう言うしかなかった相手の気持ち考えたかっ?
好きな相手を惨めな気持ちにさせてさ
お前ホントにその人のこと好きなの?
愛してるの?
自分が傷つきたくないだけだろっ」

「…………」
「…………」

視線を上げて智君を見たら、智君も俺を見てた。

唇がすっかり付き出してて、上目遣いに俺を見上げて。
泣くのを我慢してる顔だ。

ああ、ごめん。

本当に。

俺は空になったコーヒーカップから手を離すと、テーブルの上で布巾を持ったままの智君の手に自分の手を重ねた。

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