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夜の影

第15章 孤高の人

【某国某氏】

マツオカは動かなくなったニノミヤを蹴り続けていたが、動きを止めたものの荒い息を吐くばかりでヒガシヤマには答えない。

「…らめ…」

アキラの声がした。

「怒ら、いで…」

「薬を使われたのか?」

ヒガシヤマがアキラの頬を撫でながら言った。

冷たく静かな物言いとは裏腹に、その仕草は慈しみに満ちていた。



「…ぉねが…ろさない、で」



アキラが途切れ途切れに言う。

殺 さ な い で、と言ったのか?

可哀そうに、命の危険を感じる程の恐怖だったのだろう。

「アキラ…」

思わず私が声をかけると、アキラからうわ言のような返事があった。

「ム、シュ…ごめ、さい…」

「アキラッ」

駆け寄ってアキラの頭を撫でた。

「済まなかった、お前は怯えていたのに
一緒に連れて出れば良かった」



「こ、ろ...ぃで...」



再び懇願するように言ったアキラをヒガシヤマが 抱 き しめているから、私には手が出せない。

「くそっ!」

腹立ちのあまり、私はニノミヤへ近づき胸ぐらを掴むと、動かなくなったその 躰 を 殴 り つけてやった。

「お前のせいだっ!お前のっ!!
この、疫病神めっ!!」

手が痛むのが口惜しくて、途中からマツオカがしていたように足蹴りに変えた。

「ムッシュー」

ヒガシヤマのゾッとするような冷たい声がして、動きを止める。



「ペナルティの件ですが…
その男、こちらに渡してもらえませんか

貴方様には今後とも暁を贔屓にしていただき
是非、マツオカを支えていただきたいのです

その男をお渡し頂ければ、
今回のことは無かったことにいたしましょう」



「ほ、本当かね…?」



そうしてもらえるなら、むしろ助かるぐらいだ。

元々自分勝手な男、母国へ帰って里心が着いたのだろう、とでも誤魔化せば、あとはどうとでもなる。



「アキラは連れて帰ります
それでよろしいですね?」

「あ、ああ、仕方あるまい
この度は客人が無礼を働き、大変申し訳ないことをした
アキラ、許しておくれ」



マツオカが持って来た毛布にくるまれたアキラは、気絶してしまったのだろう。

声をかけても、もう動かなかった。






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