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夜の影

第15章 孤高の人

【智side】

社長は、最後のターゲットを手に入れてどうするんだろう…。

カズのお母さんは 自 殺 したと聞いてる。

二人がやってることが 復 讐 なんだってことは知ってたけど、俺は具体的に何をしてるのかまでは理解してなかった。

カズに訊いても、ノリユキ兄さんについていくだけ、って言うし。

コイツには恐ろしくて訊けなかった。

傍で見ていて何となくわかったのは、土 地 とか、株 とか、本来の当主から不当に奪ったものを取り返してるらしい、ってことぐらいで。

カズの父親のこともコイツは憎んでる筈だし、多分、正当な跡継ぎのカズの為なんだろうと漠然と思ってきたけど…。

もしかして仕返しに相手を 殺 そ う と してるんじゃないか、って。

実はずっと疑ってた。

それだけは、止めないと。



「ひとごろしは、だめ…」



まだ口がうまく回らない。

目も開けられない。

なぁ、俺の言ってること、わかる?



「ん?なんだ?」



静かな声が、優しく聞こえる。

昔、仕込みの時とか、その後しばらく一緒に住んでた時に、熱を出したりするとこういう声を聞いた。

元々感情を表に出さないタイプで、静かに話すやつだけど、長く一緒に居ると判ることもある。

俺が怯えてると思ってるか、心配してる時は、いつも声が優しくなった。



「ふくしゅうでも、ころさないで」



頭を撫でていた手が止まって、ふっ、と笑う気配がした。



「ばか、大丈夫だ
俺がそんなことをしたら、お前やカズに類が及ぶだろう
お前、そんなことを心配してたのか?」

「…うん…」

「大人になったかと思っていたが…
発想がまだ子供だな(笑)」



指が頬に移って、また、撫でられる。



「カズが二十歳になったから、
あの男が持ってる全ての財産を、カズに生 前 贈 与 させる
この後、カズとあの家に行って
目の前でサインをさせたら
それで、終わりだ」

「ほんとに…?」

「本当だ
悪いが、お前の名前は出さないぞ
お前はあの家とは関わらない方が良い
せっかくご家族がお前を守ったんだ
自由に生きろ」



ああ、良かった…。

俺のことはどうでもいい。

長い間の気がかりが解消したら、涙が出て来た。








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