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夜の影

第15章 孤高の人

【智side】



「…無理言うな」



なだめるように言って、また笑ってる息遣いがした。

抱 き しめるみたいに、握ってる手が柔らかく俺を包む。



「だめ…?」



『玉』は商品だから、手を出さない主義だもんな…。

流石に俺も、一日で三人はキツイや…。

段々考えるのが面倒になってくる…。

気 持 ち い い から、このまま眠ってしまおう。



「俺にはもう、そんな力は残ってないよ
こうして、最期にお前の傍に来るだけで精一杯だ」



さいご、って…?



「智、マツオカが来たら
車を探すように言うんだぞ」

「くるま?…うん…」



握られてる手の感触が、次第におぼろげになってきた。



「二人で行った埠頭を憶えてるな?
カズはまだ生きてるから…」



ふとう…。



「よこはま…?」

「そうだ、イイコだな…
お前は頭がいい」



何の話だろう、と思いながら。

何の話か、どこかでわかってる。



「おれ…待ってる、から」



アンタといっしょに居るから…。

言ったつもりになったけど、自分が声を出しているのかも定かじゃない。

目を開けようと思うのに、どうしても目蓋が動かない。



「智…俺のことは待つな…
おまえは自分の人生に戻れ…
翔が、待ってる…」



ショウ…?



「車を…探すんだ…」



くるま…。









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