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夜の影

第15章 孤高の人

【智side】

バタンッ!!!

突然、ドアが開く大きな音がして、驚いて飛び起きた。

ここはどこなんだろう、ベ ッ ド の上にいる。

さっきまで 裸 だったのに、スウェットを着せられてた。


「智っ」

「マツオカさ」

「智っ、社長とカズがっ」



血相を変えたマツオカさんが部屋に飛び込んできて、俺の両肩を強く掴む。



えっ!?

何っ!?

夢っ!?



「二宮の屋敷から火が出たっ
社長とカズが行ってるんだっ」



マツオカさんは、まるで俺にすがるみたいにして、ぎゅうぎゅうと 抱 き しめてくる。

痛いよっ!?



「智っ、わかるかっ!?
二宮の屋敷が燃えてるんだっ」



あ…う、そ…。

だって、さっきまで隣に。

夢…?



マツオカさんが俺の肩を揺さぶってる。

力が強くて、掴まれたところが物凄く痛い。



「向こうにナガセが行ってるっ
社長の車が見当たらないって!
智、お前、何か聞いてないかっ!?」



くるま。



「よこはま」



何が起こったのか寝ぼけてて理解できてないのに。

言った瞬間に、ダーッと涙が出て来た。



「横浜の埠頭に居るって言ってたっ
カズはまだ生きてるから、って」

「港だなっ」

「待って、俺も行くっ」



言ってベッドから降りたら、脚 が 立たない。

そのままべしゃっと 躰 が 崩れる。

出て行きかけたマツオカさんが振り返って、一瞬迷う様子を見せた。

だめだ、置いて行かれる。



「昔アイツと行ったんだっ
俺じゃないとわかんない場所だよっ
連れてって!!」



瞬きもしないで俺を見てるマツオカさんに向かって叫んだ。



「マツオカさんっ!!」



チッ、と盛大に舌打ちがあって。



「ああ、もうっ!!
来いっ!!!」



力の入らない脚で立ち上がり、泳ぐように近づくと、マツオカさんが俺の腕をとって自分の肩に回してくれる。

涙が止まらない。

何度もつまづきながら、引き摺るように歩かせてもらって。

急がなくちゃ、って焦るのに。





『おまえは自分の人生に戻れ…』





目の前が見えない程に涙も鼻水もくちゃくちゃになりながら。

まだ見ぬ結末を、俺は既に受け入れていた。






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