テキストサイズ

夜の影

第15章 孤高の人

【智side】

マツオカさんが運転する車の助手席に乗ってからも、俺は涙腺が壊れたみたいに、涙が止まらなかった。

黙ったままで鼻をすすり上げてる俺が、うっとうしかったんだろう。



「……」



赤信号で止まった時、マツオカさんは無言でダッシュボードを開けると、スタンドかどこかでもらったらしい熨斗紙のついた新しいタオルを取り出して、俺の膝の上に置いた。



「…っ…ごめ…っ」

「智、大丈夫だ
あの人は用意周到な人だし
コクブンも同席してた
無事でいるさ」



俺を安心させようとして何でもないみたいに言うマツオカさん。

でも、俺には返事のしようもなくて。

タオルで顔を隠したまま、首を左右に振った。



心配して、怖いから泣いてるんじゃない。

マツオカさんが知らないことを、俺はもう、知ってるから。

きっと、そういうことなんだ、って思うと、涙が止まらなかった。



「…おれを、運んでくれたのは
マツオカさん?」

「ああ、俺のマンションが一番近かったからな
今の社長には…」



もう、俺を 抱 い て 運ぶだけの力はなかったんだろう。
一体どこからが夢だったのか。



「おれ、よく憶えてないんだ
アイツは、いつまで一緒に居たの?」

「俺と社長は別の車だったから
あの後すぐ、社長の車にターゲットを積んで…
社長はそのままカズを迎えに行ったよ
カズを拾って二宮の屋敷へ行く予定だったからな」

「…そう…っ…」



じゃぁ、やっぱり。



「智、大丈夫だから
もうそんなに泣かないでくれ」



また泣き始めた俺にマツオカさんは苛立ちを含んだ声で言うと、スマホを取り出し、どこかへ電話をかけた。

恐らくナガセさんと話しているのだろう。

向かう先で落ち合う手はずをつけているのを聞きながら、アイツを見つけたらマツオカさんはどうするんだろう、って思って。

泣いてるせいで乱れてる自分の呼吸を整えながら、マツオカさんを見ないようにして窓の外に視線をやった。






ストーリーメニュー

TOPTOPへ