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夜の影

第15章 孤高の人

【智side】

星もない夜の中、遠くの空が赤く光ってる。

あの方角は、二宮の屋敷がある辺りだ。

燃えてるのが、高速からも見えていた。

あの二人が、何としてでも取り戻そうとしていた二宮家の象徴。

戦前に建てられたという、石造りの屋敷と、それを守るように取り囲む雑木林。



『悪いが、お前の名前は出さないぞ
お前はあの家とは関わらない方が良い
せっかくご家族がお前を守ったんだ
自由に生きろ』



アイツの言葉を思い出す。

人 殺 し はしない、って言ってた。

だから、火をつけたのはきっと別の奴なんだろう。



埠頭に着いたのは、もう日付が変わる頃だったと思う。

夢で教えてもらった通り、昔アイツと二人で 釣 り 糸 を 垂らした場所に、車は停まってた。

隣に車を停めるなりマツオカさんが外に飛び出して行って、つられるように俺も外に出たけど。

アイツとカズのどっちに行けばいいのか、一瞬迷ったら、脚が動かなくなって。

二人並んで後部座席に座ってるけど。

マツオカさんが真っ直ぐにアイツのところへ行ったのを見て、カズを憐れに思った。



「社長っ」



ここに着くまで表には出さなかったけど、アイツのことを案じて、きっとマツオカさんは俺よりずっと必死だった。

後部座席に向かって駆け寄りながら、大きくハッキリとアイツを呼ぶ声には、最初、良かった、って安堵の気持ちが滲んでた。

でも。

ドアを開けて呼びかけてもアイツの返事が無いから。

声が不審に思ってる調子になって。



「…社長?」



俺からは背中しか見えなかったけど、恐らくアイツの躰に触れて。



「っ!?」



マツオカさんが後ずさりしたのがわかった。








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