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夜の影

第16章 明日の記憶

【翔side】

仕事があると言ってサトシが部屋を出ていってから、もう5日。

二宮君の姿もあれから見かけなくて。

俺は会社(って言っていいのか?)のご厚意に甘えて、この部屋に居させてもらってる。

昼間は社長が経営する飲食店のスタッフである相葉君が一緒に居てくれて。

夕方から出勤する彼の代わりに、夜になると弁護士事務所のジョウシマさんがこの部屋に泊りに来てくれてたんだけど。

さっきジョウシマさんからメールがあって、急に通夜が入ったから今夜は来られない、ってことだった。



通夜の連絡なら、急に入るに決まってる。



一人でも大丈夫です、って返信はしたんだけど、相葉君は俺を一人にすることをずっと気にしていた。

どうやら会社の指示みたいで。

ジョウシマさんによると、サトシが俺を一人にしないで欲しい、って頼んで行ったらしい。



俺は自分の家のこととかサトシには全然言ってないんだけど。

俺に行くところが無いってことはサトシにはお見通しだったみたいだし。

もしかしたら、二宮君から俺のことを聞いてたのかな…。



なんだか、迷惑のかけ通しと言うか、そこまでしてもらっていいのかな、って申し訳なく思うんだけど…。

現実問題、泊まる場所があるのは有難かったし…。

サトシとこのまま会えなくなるような気がして、ここから離れたくなかった。



明日から仕事だから、って簡単に言ったサトシの口ぶりで、俺はその時、何となくサラリーマンの出張的なイメージを持ってしまって。

後に、サトシの仕事内容が何なのかに思い至って、結構ショックを受けた。

いくら自分自身のことで精一杯だとは言え、あまりにも世間知らずな自分が情けなかった。



考えてみれば仕込みを始める際に、社長からちゃんと説明をされていたんだ。

一旦仕事に出ると一週間ぐらいは身動きが取れないのが普通だって。

外国人相手の仕事で、相手の滞在中ずっとホテルに詰めることもあるし。

新人の場合はなるべく短くするけど、基本的に一晩限り、というやり方はしてない、って。



聞いていたのに。



結局、俺は、自分が本気でこれを仕事としてやる覚悟が出来てなかったのかもしれない。

初日にサトシに言われたことを思い出して、そう思った。





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