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夜の影

第16章 明日の記憶

【翔side】

一人の夜は思ったより長く感じた。

やっぱり、誰かが居るのとそうでないのとでは、時間の経過が違って感じられるんだろう。

時々、外廊下の気配が聞こえるような気がして。

もしかしたら今日あたり、サトシが帰って来るかもしれないと思った。

サトシがいつ仕事から帰って来るのか、誰も教えてくれなかったし。

知ってるとしたら、多分、二宮君かジョウシマさんだけど。

サトシの仕事の内容について思い至ってからは、訊いていいものかどうかの判断もつかなくて、黙ってた。



はぁ…。



溜息が出る。

取りあえずは、現実に戻るってことは家に戻るってことだ。

少なくともそれまでは、ここでサトシを待って居よう、と思う。



俺はベッドから立ち上がると、毛布を体に巻き付けて、枕を手に玄関へ向かった。

もしかしたら、もうすぐ帰って来るかもしれないし。

部屋で待ってても、玄関で待ってても同じだ。



サトシが今どこにいて、誰といて、何をしてても、それでもいい。

サトシはサトシなんだから。

俺はサトシのこと、ほんの少ししか知らないけど。

だけど、知ってる限りのサトシで、待つ理由には充分足りた。

サトシが俺にくれたもの。

それは何か、って言われたら説明に困るけど…。



離れたくない。

無かったことには、したくないんだよ、サトシ。

俺待ってるから。

帰って来て。



そんなことを思いながら、俺はいつの間にか眠ってしまったみたいで。

玄関の鍵が開く音で、意識が戻った。



「うわっ、
びっくりしたなぁ~も~」



声がしたから反射的に身を起こす。



「サトシっ!?」

「…………」



そこに立ってたのはジョウシマさんで。

俺を見て、驚いてた顔がだんだんと別の表情に変わる。



「智君を待ってたん?」



しゃがみこんで、俺と目線の高さを合わせたジョウシマさんが、ゆっくり言った。









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