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夜の影

第17章 Daylight

【智side】

カズは大人の男がいきなり動くのを怖がる。

さっきから車道側の街路樹と、ビル側に並んだ自転車の間でやってるから、通行人の邪魔になってた。


「そんなこと言ってないだろ
カズは俺の大事なおとーとなんだから
俺が守ってやる」

「…………」


立ち尽くしてるカズの目が段々とぼんやりしてくる。

俺とは普通に話せるようになったけど、それでも時々、何かが心に引っかかると、こんな風にフリーズしてしまう。


「カズ」

「…………」

「カズ、店に着いたらアイス食べようか
それともパフェにする?
和也?
こっち見て
この人誰?」


俺は自分で自分を指さして見せた。


「...サトシ…」

「あっ、呼び捨て
お前のにーちゃんだろぉ
にーちゃんて言えよ~」

「にー…」

「サト兄だろ?」


カズの両頬を手で包んで、笑いかけてやる。

ほっぺたを左右から摘んでぷにぷにしてるうちに、目の焦点が戻ってきた。


「…サト兄」


恥ずかしそうに言って、カズはあどけなく笑う。


「うん、サト兄な
ほら、あとちょっとだから頑張ろ」


手を出してやると、素直に繋いできた。

笑いかけてやって、二人歩き出す。

繋いだ手をぶんぶんと大きく振って。


「へへっ」


左側から、カズの嬉しそうな声がした。



こんな風に嬉しそうに笑う様子が見られるんだから、俺は、これはこれで良かったのかも知れないと思う。

事務所に詰めていた頃のカズからは、想像がつかない程のあどけなさだった。

元々は、こんな子供だったんだろう。

また、やり直せばいいだけだ。








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