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夜の影

第17章 Daylight

【智side】

今のところ、俺とカズはマツオカさんのマンションに世話になってる。

カズは記憶が完全になくなった、ってわけでもないみたいなんだけど。

いろいろ混乱してるらしくて…。

今は、言動が10歳ぐらいの子供と同じ状態になってた。

ショックが大きくて、現実から自分を守るために子供返りしたのではないか、と医者は言った。

対応出来ないことや受け入れられないことは、心が拒否してるから、認識も判断もできない状態、らしい。

例えば、今、何歳?って訊かれても、答えられなかったりする。





目覚めてしばらくは、困った顔できょとんとするばかりだったそうで。

意識が戻ったって聞いて俺たちが病院へ行った時には、ベッドの上に上半身を起こした状態だったけど、怯え切って手を握ったり開いたりしながらブルブルと震えてた。


「この中に知ってる人はいる?」


医者が静かに訊いたら、俯いたまま小さく頷いて、こっちを見ないまま俺を指さして。


「この人は誰だろう?」


続く質問に、小さな声で「おにいちゃん」って答えた。

他の人のことは、全員知らないって。





あんまりにも震えてるから近くまで行って手を握ってやったら、ぎゅっと抱きついてきて、シクシクと泣き出して。

俺は正直、カズに慕われてるとは思ってなかったから驚いたんだけど。

生きててくれただけで、もう、良かったんだ。

もう誰のことも失いたくなかった。

生き別れも、死に別れも、もう、たくさんだ。

だから。

それから俺は、ずっとカズと一緒に居る。








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